理瀬シリーズの出発点『三月は深き紅の淵を』恩田陸【あらすじと感想】

日本の小説
※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

こんにちは、akaruです。

恩田陸さんといえば『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』など有名作が多数ありますが、シリーズものも複数展開していますね。

なかでも理瀬シリーズは、2024年に最新作となる『夜明けの花園』が発売されました。

本記事では主人公の理瀬が初登場するお話が収録されている『三月は深き紅の淵を』のあらすじと感想をご紹介します。

理瀬シリーズをこれから読もうとしている方へ
    理瀬シリーズは『麦の海に沈む果実』から読むことをおすすめします。
  • 『麦の海に沈む果実』はシリーズの最初の長編です
  • 『三月は深き紅の淵を』は理瀬が初登場するお話ですが、断片的です
    『麦の海に沈む果実』を先に読んだ方がわかりやすく、ネタバレにもなりません

『麦の海に沈む果実』のあらすじと感想はこちらです。

『三月は深き紅の淵を』作品概要

  • 著者:恩田陸
  • 発行:1997年
  • ジャンル:短編集
  • シリーズ:「理瀬」シリーズ

『三月は深き紅の淵を』あらすじ

本作は、作中作『三月は深き紅の淵を』を巡る4つの短編集です。

第一章 待っている人々

鮫島巧一は履歴書の趣味欄に読書と書いたことがきっかけで、会社の会長の別宅に招待される。

二泊三日の「三月のお茶会」で鮫島を待っていたのは会長とその知人で、いずれも稀覯本『三月は深き紅の淵を』をもう一度読みたいと切望していた。

会長は鮫島に、建築家である知人が建てたこの家の中から『三月は深き紅の淵を』を見つけ出せるかどうかの賭けを持ちかける。

第二章 出雲夜想曲

編集者の堂垣隆子は同業の江藤朱音を誘い、寝台列車で出雲に向かっていた。

二十年もの間作者不明とされていた幻の名作『三月は深き紅の淵を』。その作者は出雲にいるのではないか。

酒盛りをしつつ、隆子は自分の推理を披露する。

第三章 虹と雲と鳥と

「虹と雲と鳥と」。それが篠田美佐緒から送られてきたノートの最初のページに記されていたタイトルだった。

美佐緒は、林祥子とともに冬の城址公園で転落死した。事故として処理されたが、二人の間に一体何があったのだろうか。

美佐緒の元家庭教師である野上奈央子は、美佐緒の元恋人である廣田啓輔とともに二人の足跡をたどる。

第四章 回転木馬

小説家である「私」が、『三月は深き紅の淵を』の第四章「回転木馬」を書こうとしている。

「私」の思考や出雲への取材旅行と、『麦の海に沈む果実』と思われる描写が入れ替わりながら進んでいく。

ラストは『黒と茶の幻想』を思わせる書き出しで終わる。

『三月は深き紅の淵を』感想

先にも書いた通り、本作は作中作『三月は深き紅の淵を』を巡る4つの短編集です。

私たちが手に取っている「外側」の物語と、作中作である「内側」の物語が存在する入れ子式小説となっています。

     内側の『三月は深き紅の淵を』
  構成 第一部 黒と茶の幻想
第二部 冬の湖
第三部 アイネ・クライネ・ナハトムジーク
第四部 鳩笛                 
  作者 不明
 発行部数 200部(実際の所有者は80人ほどともいわれている) 
  備考・作者を明かさないこと
・コピーをとらないこと
・所有者以外への譲渡禁止
・所有者は一人だけ一晩のみ貸し出してよい

内側の物語

「外側」の物語のうち、第三章まではミステリ仕立てになっています。

それぞれテイストが異なるので、飽きずに楽しめます。

一方、作中では『三月は深き紅の淵を』は語られるのみで実物は出て来ません。

特に第一章「待っている人々」と第二章「出雲夜想曲」でその内容が語られますが、本を読むことを愛する登場人物たちの語り口が魅力的です。

また、少ない発行部数に作者が不明という設定も振るっています。

自分も是非読んでみたいと思わされるのは、私だけではないのではないでしょうか。

『黒と茶の幻想』は実際に出版されていますし、他の作品も「ひょっとして…」と思うものがあります。恩田さんの作品を色々読んでみて発見するのも楽しいかもしれませんね。

本を読むこと

第一章と第二章では、登場人物たちのセリフや考え方を展開するシーンがあります。

本を読むのが好きな人であれば共感してしまうのではないでしょうか。

登場人物たちを掴んで離さない『三月は深き紅の淵を』の「残る」感覚。

四部まである作品の、第二部があと少しで読み終わるというところで返却しなければならない絶望。

飲み会を断る言い訳としての「ゲーム」と「読書」の印象の違い。

少女時代の幸福な読書の時間を懐かしむ気持ち。

本を読む行為は孤独ですが、私だけではないんだという妙な安心感を覚えます。

「理瀬シリーズ」の出発点

第四章「回転木馬」は、作者自身を投影したと思われる小説家である「私」の思考や出雲への取材旅行と、『麦の海に沈む果実』と思われる描写が入れ替わり現れます。

くるくると変わる視点は、まさに外側からメリー・ゴーラウンドを見ているかのようです。

また、この「回転木馬」にて「理瀬シリーズ」の主人公である理瀬が初登場します。『三月は深き紅の淵を』のタイトルも、もともとは『麦の海に沈む果実』の原型で構想していた節がありますね。

「理瀬シリーズ」の舞台裏を見ているようで個人的には第四章もとても面白く読んだのですが、他の方の感想には「よくわからなかった」というものもあるので、好みが分かれるのかも。

また、読む順番も影響するのかもしれません。

私は『麦の海に沈む果実』を先に読んでいたので、またあのお話の登場人物たちに会えた!という喜びがありましたが、未読の方からするとわかりにくいのかもしれません。

「理瀬シリーズ」をこれから読もうと考えている方、「回転木馬」で興味が出た方は是非こちらを読んでみてください。