『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー【あらすじと感想】

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こんにちは、akaruです。

「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティー。

「名探偵ポアロ」や「ミス・マープル」シリーズなどの推理小説が有名ですが、ロマンス小説に分類される作品も残しています。

本記事ではアガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』のあらすじと感想をご紹介します。

『春にして君を離れ』作品概要

  • 著者:アガサ・クリスティー(名義:メアリ・ウェストマコット)
  • 発行:1944年
  • ジャンル:ロマンチック・サスペンス

『春にして君を離れ』登場人物

スカダモア家

  • ジョーン…主人公。主婦。
  • ロドニー…ジョーンの夫。弁護士。
  • トニー…長男。
  • エイヴラル…長女。
  • バーバラ…次女。結婚してバグダッドに住んでいる。

  • ブランチ・ハガード…聖アン女学院時代のジョーンの友人。

『春にして君を離れ』あらすじ

何日も何日も自分のことばかり考えてすごしたら、自分についてどんな新しい発見をすると思う?

ジョーン

ジョーンはイギリスの田舎町クレイミンスターで生まれ育った。

ロドニー・スカダモアと恋愛結婚をして、三人の子どもに恵まれる。

夫は優しく、弁護士としても成功している。

三人の子どもたちも、今ではそれぞれに結婚している。

ジョーンは理想の家庭を築き上げたことに満ち足りており、それは良き妻、良き母親である自分のおかげでもあると自負していた。

再会

ジョーンは末の娘であるバーバラを見舞うため、一人でバグダッドに行っていた。

ロンドンに帰る途中に立ち寄った鉄道宿泊所で、女学生時代の同級生ブランチ・ハガードと再会する。

憧れの的だったブランチは、変わり果てていた。

老け込んで惨めな恰好をしており言葉遣いも下品で、奔放な人生を歩んできたブランチに、ジョーンは憐みを覚える。

しかし、ブランチの言葉にはジョーンを戸惑わせるものもあった。

「あのかわいらしいバーバラ・レイがあなたのお嬢さんだなんてねぇ。ほんとに思い違いってあるものだわ。みんなはね、バーバラのことを、よっぽど問題のある家庭に育ったに違いない。家から逃げだしたくて、プロポーズした最初の男と結婚したんだろう、なんて噂していたのよ」

「昔からお堅い一方だったものね、あなたは。でもご主人は、そうね、まんざら夫の座におさまっているわけでもなさそうな目つきだったわ」

足止め

反対方向へ行くブランチと別れ、翌日、ジョーンは自動車に乗って汽車の出るテル・アブ・ハミドに向かう。

ところが、悪路と悪天候により、ジョーンは鉄道宿泊所で足止めされてしまう。

真実

知り合いはなく、手持ちの本は読んでしまった。

ここはブランチの言ったように、自分について考える良い機会かもしれないと思うジョーン。

ブランチの言葉をきっかけに、これまでの家庭生活について回想していく。

しかし、理想の家庭だと信じていたジョーンの中に疑念が生まれる。

ロドニーが法律事務所の共同経営者ではなく、農場を経営したいと言った時。

バーバラの結婚、トニーの進学、エイヴラルの恋愛。

回想が進むにつれ、ジョーンは今まで気づかなかった真実に気づく。

ロドニーに許しを乞いたいと願うジョーンに、汽車が到着したという知らせが入る。

『春にして君を離れ』感想

恐ろしい。私にとっては、まさにそんな読後感でした。

「ミステリーの女王」と名高いアガサ・クリスティー。本作は推理小説ではありませんが、他作品でも発揮されていた人間観察眼が冷ややかなまでに感じられます。

自己満足

冒頭でのジョーンの印象は、有能で、家族を思いやっていて、常に最善と思う選択をする女性です。

しかし、読み進めていくうちに変わってきます。

ジョーンの考え方が「有能である自分が家族のためにした最善だと思う選択なのだから、間違っているわけがない」であるというのが透けて見えてくるのです。

自分が有能であるということと、自分以外は能力が低いというのはイコールではない。

自分に判断基準があるように、自分以外にも判断基準がある。

そういったことに気づけずに、全く悪気なく、相手を否定し続けてきたのです。

恐ろしいのは、自分がジョーンとは絶対に違うとは言いきれないことです。

「あなたのためを思って」。「私がいたから良かったものの」。

程度の差こそあれ、誰もが思ったことがあるのではないでしょうか。

本心から相手のことを思ってのことかもしれませんが、相手が納得していなければただの押し付けになってしまいます。それが積み重なると、たとえ近しい人でも離れていってしまうでしょう。

そうならないように気をつけようと思いました。

幸せ

夢だった農場経営を諦めて、嫌だった弁護士として成功したロドニー。

ラストの方で農場経営と弁護士の現実を実感するシーンがあることからも、社会的にはロドニーは成功者です。

しかし、それは本当にロドニーにとって幸せだったのでしょうか。

ジョーンの反論は、確かに現実的ではあります。

お金を稼げなければご飯を食べることも、子どもたちの教育も思うようにできません。

しかし、ジョーンの言い分は彼女自身の見栄からくるもので、家族の幸せとは別のように思います。

自分の夫が、年収がとても低かったり、リスクが高い職業に転職したいと言い出したら、どうするだろうか。

否定せずに応援はしたいですね。資産を稼いでからが条件ですが。