こんにちは、akaruです。
かつて『山荘奇談』や『たたり』というタイトルで邦訳されていたシャーリイ・ジャクスンの『丘の屋敷』。
スティーヴン・キングが絶賛し、『シャイニング』に影響を与えたと言われています。
本記事では、『丘の屋敷』のあらすじと感想をご紹介します。
『丘の屋敷』作品概要
『丘の屋敷』あらすじ
八十年前に資産家によって建てられたが、今では幽霊屋敷と恐れられている。
<丘の屋敷>の噂を聞いた哲学博士のジョン・モンタギューは、屋敷を借りて超常現象の研究をすることに決めた。そして調査の助手を探すため、超常現象の体験者に招待状を送る。
エレーナ・ヴァンスは招待状を受け取った一人であった。子供の頃にポルターガイストを経験していたためだ。母を亡くし、姉夫婦の家に居候していたエレーナは折り返し承諾の返事を出した。
同じく助手として参加する透視能力者であるセオドラと、屋敷の持ち主の甥であるルーク・サンダースンを合わせた四人で<丘の屋敷>の調査を開始する。
『丘の屋敷』感想
『丘の屋敷』は幽霊屋敷ものとしてももちろん楽しめますが、それ以上に人間心理の描写が恐ろしいと感じる作品です。
エレーナという女性
このお話の主人公はエレーナ・ヴァンスですが、読み始めてすぐに、エレーナという女性に違和感を抱くでしょう。人によっては嫌悪を感じるかもしれません。
エレーナは32歳になる女性です。11年間母親の介護にかかりきりだったとのことで、友達も恋人もいません。居候先の姉夫婦ともうまくいっていないようです。
コミュニケーション能力というものは、持って生まれた人もいるかもしれませんが、他人と接することで鍛えられるものでもあると思います。エレーナの場合、生活の相手は母親しかおらず、しかも母親は小言しか言いませんでした。
もともとの性格が助長されたのか介護生活が変えてしまったのか、エレーナは他人との接し方や相手への伝え方がまるで未熟です。
自己肯定感は低く、劣等感も強い。けれど反面、自意識や承認欲求は過剰であることが読み進めるうちにわかってきます。
このように書くと、なんだか面白くなさそうと思われるかもしれません。しかし、エレーナの不安定な内面は、後の<丘の屋敷>に起こる超常現象につながっていきます。また、純粋にエレーナのような(面倒くさい)人物の心理描写が見事だと思います。
モンタギュー夫人
幽霊屋敷と恐れられる<丘の屋敷>は、4人の前にも超常現象を見せます。
開けておいたはずのドアが勝手にしまったり、夜中にドアを叩いてまわる音がしたり、壁に文字が書かれたりなどです。
私が一番怖かったのは、暗闇の中で絶え間なく続く声に怯えていた時、エレーナがセオドラの手を握っていると思っていたのに、実際にはセオドラは離れた自分のベッドにいたことが分かったシーンです。
自分の家、自分の部屋、そして自分のベッド。安全地帯が脅かされるのは勘弁願いたいですね。
ところで、4人でスタートした<丘の屋敷>の調査は、数日後にモンタギュー夫人と、夫人の知人であるアーサーが合流します。
モンタギュー夫人はきびきびとした現実的な人で、プランセットというこっくりさんに似たもので霊との通信を試みます。
プランセットに応答はあるものの、夫人やアーサーの前には4人が体験したような超常現象は起きません。
ここから、だんだん流れが変わってきます。
“旅は愛するものとの出逢いで終わる”
近年のホラー映画のような、強い刺激を求める方には物足りないかもしれません。
じわりじわりと忍び寄るような、気が付かないうちに取り込まれているような、そんな怖さです。
本当は何が原因で、実際に何が起こっていたのかはっきりと書かれていない。そこが本書の恐ろしく、そして面白い点です。
<丘の屋敷>が本当に邪悪な力を持っていて、今また新たなエレーナという女性を取り込もうとしているのか。
はたまた、自意識過剰なエレーナが、思い込みの激しさゆえに屋敷を自分の居場所にしたがっているのか。
いずれにせよ、結末まで読んでほしい作品です。